■VOL.10「カメラマンとモデルの奇妙な関係」

「どうしてもプロのカメラマンになりたいんです」
さわやかな秋の風に誘われて、どこかへコスモスの花でも見に行こうと思っていたら、 いつものようにカメラ小僧が訪ねて来た。

「で、何を撮りたいの?」 まず私は、そう聞いた。

「やっぱり女の子です」 たいていの相談者は、いくぶん照れながら答える。

「あっ、そうなの…」 またしても予想的中だ。


「なぜ女の子がいいの?」 いちおう聞いてみる。

「だって楽しそうじゃないですか」 相手は当然とばかりに口を尖らせる。

「楽しくないと言えばウソになる。でも、他にも色々な職業があるし、どんな仕事だって一生懸命やれば楽しいんじゃないの」 私が知りたいのは、あくまでも訪問者の本心だ。


「そうかもしれないけど、どうしてもボクは女の子の写真を撮りたいんです」

「アマチュアでも撮影会などで女の子の写真は撮れるよ」 いちおう私は念を押す。

「ボクはプライベートで撮りたいんです」 どうしても彼は譲らない。

「アマチュアのほうがプライベートで撮れるんじゃないの…」

「そんなもんですかね?」 まだ半信半疑のようだ。


「プロは仕事だから、例えば(肌の)露出についても契約通りに写さなきゃならないけど、アマチュアだったらお互いの合意さえあれば、何だって撮れるんじゃないの」 ここまで話すと、相手も真剣なまなざしになってくる。


「えっ、プロでも自由に撮れないんですか?」

「プロだからこそ自由には撮れないんだよ。すべて発表を前提にシャッターを押すからね。使うか使わないかわからないけど、いちおう撮らせて! というのはルール違反になる」

「へー」 相手は妙に感心している。どうやら肖像権については、まったく知らないようだ。

「もう一度だけ聞くけど、どうして女の子を撮るカメラマンになりたいと思ったの?」

「ここだけの話ですが、いつも女の子の裸を見られると思ったからです」

「そうか。キミは正直だ」 ちょっとだけだが、彼の素直な性格が気に入った。


「で、本当はどうなんですか?」

「もし裸を見たいと思えば、いくらでも見られるよ。朝から晩までイヤというほどね」

「じゃあ、可愛い娘とエッチしたいと思ったら?」

「それは、いちがいには言えない」


「ぜひともボクをプロにしてください!」 いつのまにか彼は身を乗り出して来た。

「そんなことで簡単に人生決めちゃっていいの? そんなに女の子が好きなら、キミも彼女つくれば、いいじゃん。 好きなだけエッチだってできるだろ」


「でもキッカケがないし…」

「女の子くらい他の仕事でも、バイトでも、どこだって知り合えるだろ」

「ボクには告白する勇気がありません」 彼は、うなだれた。

「はっきり言うけれど、そんな性格じゃ、カメラマンは無理。女の子の裸を見られる仕事は、他にもいくらでもある。 キミは別の道に進んだ方がいいよ」

「・・・・・・」 彼は納得いかないのか、無念そうな表情を浮かべた。


私は貴重な時間を割いて、精いっぱい人助けをしたつもりだが、彼がどう受け止めたかまではわからない。 おかしな道にまぎれこんで犯罪者にならないことを祈るばかりだ。


確かにプロのカメラマンは、もし本人が望むならば、いくらでも女の子の裸だって間近で見られる。 だが女の子の裸を見るのが仕事ではなく、女の子の裸を(写真で表現して)他人に見せなければならない、 つらい仕事でもある。 もしモデルとの深い恋に落ちてしまったら、はたして蜜のように甘い、ふたりだけの秘め事を公開できるだろうか。 愛する女の全裸を発表してまでカメラマンとして成功を収めたいと願うかどうか。 今度は彼女に、カメラマンとしてではなく、男としての真心を試される番だ。


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