語録 写真家・柳沢雅彦 世界


21世紀を迎え、いま写真界では銀塩とデジタルとの間で激しい綱引きが繰り広げられています。これほど「写真とは何か?」が問われている時代はなかったと思われます。 写真家・柳沢雅彦が1つのテーマを追いかけ写真集を上梓するまでの心の葛藤を綴る「語録」には、新しい時代を切り開いていくためのヒントが隠されているかもしれません。その走り書きの一部を本邦初公開いたします。  (企画・構成/西野かおり)

写真集「美しき強者たち」(1989.1.31発行) のころ
「新聞記者を辞めフリーになって、ようやく自分の眼でモノを見れるようになった」

「デスクの指示も何もないから、よけいに物事の本質まで見えるような気がする」

「カール・ルイスは、やはり凄い。彼はスポーツ選手というより、選手の仮面をつけたスーパースターだ。全身からオーラが漂ってるね」

「フローレンス・ジョイナーの魅惑的な走りにも驚いた。アマゾネスが色香を発散させながら疾走しているイメージだ。まさに美しき強者…」

「いつになったら日本人選手に心の底から拍手を送れるのだろうか? お世辞にも健闘とは言えない選手が多すぎる」

「オリンピックを間近で見て、日本人が弱いことを初めて思い知らされた。これまではメディアの報道を鵜呑みにし、日本の選手はみんな優れていると錯覚していたようだ」

「日本は、あっさり負けすぎる。粘りがない。歯を食いしばる姿なんて、ほとんどない。もしかしたら経済的に豊かになりすぎて大事なものを失ったんじゃないだろうか」

「なぜ日本からの観客は、こんなに遅刻するのか。試合の最中でも平気でゾロゾロ移動するし、よその国からの観客のひんしゅくを買っている。オリンピックそのものを見たいというよりも単なる観光コースの1つとして組み入れているだけじゃないか!」

「日本の自国開催でもないのに、どうしてこんなに日本人ばかりが観客席を埋めているのだろう? これが経済力の差なのだろうか。オリンピックって一体、なんだ!?」

「いつまでも好景気が続くはずなどない。いつか日本は、また貧乏になる。しかし、そのときこそハングリー精神の若者たちがスポーツの檜舞台を沸かせてくれるだろう」

「僕は金メダリストと同様、ビリの選手にも感動した。決して同情や哀れみなんかじゃない。だから僕はカメラのシャッター音で精いっぱい拍手した」

「基本的にフィルム代も現像代も自分持ち。だから僕は自分の意志でシャッターを押す。誰の命令にも従わない。すべてにおいて自由を獲得した」

「こんなに大勢のカメラマンが世界各国から集結してるんだから、彼らと似たり寄ったりの写真になってしまっても不思議じゃない。でも僕は自分だけの一瞬を捉えたいんだ」

「欧米の女性カメラマンのなかには男性顔負けの力持ちがいるんだね。さすがに平等の国だけある。あれなら対等のギャラを稼いでも当然だろう(笑)」

「スポーツカメラマンは運動神経や反射神経を競い合うのかと思っていたけど、報道の現場は早いもの勝ちの場所とり合戦だ(笑)」

「ちょっと油断していると、後から強引に割り込んで来るヤツがいる。トイレから戻ったら、いつの間にか機材が隣に移動させられていたのには閉口した」

「オリンピックでは世界じゅうの食べ物があると期待してたのに、実際はハンバーガーやカップラーメンなどのファーストフードばかり。ごちそうにありつけるのは選手だけ…」

「街で食べる本場の韓国料理は、やはり違う。最高に美味いけど、猛烈に身体に襲いかかる。全部たいらげるだけで汗びっしょり。まさに真剣勝負だね」

「オリンピック取材は、ひと言で忍耐ゲーム。面白いけどクセになるとヤバそう(笑)」







ひき続き 写真集「挑戦者の肖像」のころ もぜひご覧ください



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