語録 写真家・柳沢雅彦 世界

21世紀を迎え、いま写真界では銀塩とデジタルとの間で激しい綱引きが繰り広げられています。これほど「写真とは何か?」が問われている時代はなかったと思われます。 写真家・柳沢雅彦が1つのテーマを追いかけ写真集を上梓するまでの心の葛藤を綴る「語録」には、新しい時代を切り開いていくためのヒントが隠されているかもしれません。その走り書きの一部を本邦初公開いたします。  (企画・構成/西野かおり)
写真集「佳代の記録」(2001.1.1発行) のころ
「どんどん欲望が膨らんで今度は美少女が美女に羽化する様子を克明に記録してみたくなった。こうなると、もはや密着撮影しかない」

「ただ撮るんじゃ能がない。谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』をモチーフに撮影してみたい。自由奔放にふるまう女の子のわがままをすべて受け入れてみたい」

「もしかしたら彼女の魔性に翻弄されるかもしれない。でも振りまわされながらも必死に食らいついて、どこまでもシャッターを切り続けてやる(笑)」

「キミの美しい瞳をずっと見つめていると異次元に吸いこまれてしまいそうだ。その先に何があるのか? 見てみたい気もするけど、怖くないと言ったらウソになる」

「キミは端正な字を書くね。やっぱり小さいころ書道やってたの? 僕は女の子の顔や身体と同じように字にも色気を感じるんだ。字を眺めているだけで、ほろ酔い気分…(笑)」

「彼女は撮影移動中でさえ片っ端からスカウトマンに声をかけられた。ある時は途中で行方不明になったこともある。『なんでオレについて来なかった?』と後で問い詰めると『柳沢さんこそ、どうして私をしっかり監視していなかったんですか?』と逆に責任を追求された。 こうして、いよいよ『痴人の愛』が幕を開けたんだ」

「僕とふたりっきりのときは、ごく自然に物語の主人公をお互いに演じていたけれど、それ以上のプライベートについてまでは深く干渉しなかった。だから、いくら彼女のノーメイクを知り尽くしている僕ですら、すべてにおいて彼女をコントロールできたわけではない。 それがまたミステリアスで僕の写欲を限りなくかきたてた」

「見えっ張りではない僕にとって、美女をつれて街を歩くのはなかなか勇気がいる。彼女といると、あちこちから注目されて困った。僕は写真集という舞台で男と女の愛のドラマを描きたいだけなのに、これじゃ撮影に集中できない。 彼女は周囲の熱い視線にも堂々としていたけど、できれば黒子に徹したい僕は、ただ当惑した」

「女の子の好き勝手にさせて黙ってついていくのも、なかなかスリリングだ。毎日が堕落しそうに不安定で綱渡りの連続だから…。それでいて作品としての写真は着実にたまっていく。 普通の勤め人だったら、おそらく破滅するだろうけど、写真家というのはそんなことではつぶれない。そう考えると、これほど楽しい仕事もないかもしれない(笑)」

「ひと通りの写真を撮り終えてから写真集が出版されるまで、何度も何度も『本当に写真集、出版されますか?』と彼女は僕に聞いてきた。 僕は、その度ごとに『大丈夫だよ。もし約束を破ったら、僕の命をキミにあげよう』と言い続けた。すると彼女は『私は柳沢さんを信じてます』ってね。誰にも引き裂けないほど僕らの信頼の絆は強かったよ(笑)」

「ようやく写真集ができたら『私じゃないみたいにキレイに撮れてますね』って彼女は感激してた。でも写真集のように、いつも彼女は僕の目の前でキラキラ輝いてたんだ」

「もちろん心残りはあるよ。僕としては彼女を絶対に女優にしたかったけど、彼女自身は僕の写真集の中で主演することだけで満足してしまった。ことあるごとに『僕を踏み台にして、もっと上を目指せ!』と言い続けたけど、彼女の向上心を煽り立てることはできなかった。 惜しいなーと思うけど、彼女には彼女の人生があるから仕方ないね(笑)」







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